歯科業界の苦しみ

  歯科業界の苦しみ

お役立ちコラムCOLUMN

2017.07.28

歯科業界の苦しみ

今歯科業界は結構大変な状態になっています。

保険制度が崩壊し、治療技術を大学で十分教えてもらえなかったにもかかわらず自由診療を行わなければ経営が成り立たないという矛盾を抱えているのです。

アメリカの大学でははじめから保険制度がないので、自由診療でも納得してもらえるような治療技術を教えてもらえます。しかし日本ではそのような教育を受けることは非常に難しく、時にアメリカの大学を研修されている先生もいらっしゃいますが、莫大なお金をかけて留学してやっと技術を習得してしかも有名にならなければ、なかなか歯科医として成功することが難しいようです。

仕方がないことかもしれませんが、多くの歯科医は、治療技術を習得するといった難しい道を選ぶことより、今日、明日にでもお金を稼ぐことができるような自由診療に飛びついているのが目立ちます。
安易な臼歯部のダイレクトレジン、マウスピース矯正、セレックシステムなどはその例で、基本的に様々な問題を抱えるこのような治療法が、今ではまるでスタンダードのように見える宣伝の対象と化しています。

また今になっていろいろと問題が生じているインプラントなども結果的には安易な自由診療移行のためのツールでしかなかったので、インプラントをうたれて高齢化した患者さんの、抜くことすらできない問題を抱えたままで残ってしまっているインプラントはこれから社会問題化してゆくと思います。

虫歯の深い奥歯のダイレクトレジンや大きく歯を削るセラミック修復での治療は材料の刺激で抜髄(神経を抜く治療)となる数が増加してしまうこと考えられますし。一度神経を抜いてしまうと歯の寿命は圧倒的に短くなりますし、根管治療がきちんとできる歯科医院はまだ少ないのが現状です。安易な審美治療は日本人の歯の寿命を短くする原因とのなっているかもしれません。またダイレクトレジンは目にはっきり見えなくても、必ず金属より早く磨耗しています、噛み合せが知らない間に低くなっている原因はこのダイレクトレジンの多用だと思います。何故臼歯の機能部分に磨り減りの早いレジンを使うのか?歯科医として勉強をした先生の治療としてはいま一つ信じられません。自費用のレジンでも所詮は樹脂です、金属の1/20程度の強度しかありません。患者が求めてもまずリスクを説明して、断るのが筋でしょう。

私の医院では、患者さん意識が比較的高いので、虫歯などの状況がそれほど酷くないという理由もあると思いますが、治療後に神経を抜いた歯は10年間で数本もありません。きちんと感染対策とMTAなどの適切な材料による処置を施せば、神経を抜く治療に至る可能性はきわめて低くなると思います。また金属材料を使うことによって噛み合わせの変化も少なくできます。そして何より「ものが噛める」とよく言われます。考えてみればそのために治療に来ているのですから当たり前のことですが、審美治療をうけて失敗した患者さんはなおさらそうおっしゃいます。

歯を治すことは、痛みや違和感、不快感を取り除いたり、健康の向上のために行うものですから、歯の機能の問題や痛みが起きないようなベストな材料や噛み合わせのための治療が行われれば、それが最もよいわけです。
仮にそれが自由診療であっても、きちんと行われるのであればそれでも患者さんは治療を受けてくださる人はいらっしゃると思います。多くの日本の歯科医院のように本来の目的とは違う自由診療化は患者さんのためにはなっていないと思いますし、結果的には自分の首を絞めているのと一緒です。

しかし、保険制度での歯科の点数の急激な締め付けや、歯科医院の数が急に増え経営が悪化してきたため、多くの先生は時間や労力をかけずになんとかお金が稼げる方法へと移行せざるを得なかったのだと思います。
一概に歯科医がすべて悪いとは言えません、国もこのような状況を放置してきたこともありますし、もっと積極的にアメリカの治療技術を日本に導入するなどの歯科大学の教育改革を行うべきたっだとおもいます。

私が20年以上前に、アメリカから帰ってきた先生が治療を教えてくれたとき、多くの同級生や後輩は、治療技術を習得する大変さを知ってそれ以上踏み込もうとしませんでした。つまり多くの先生はなかなか治療が大変な自由診療で行うアメリカ式の治療にはなじめなかったのだと思います。

これは日本の文化もある程度影響していると思います。少しでも安く治療をしてあげるのが親切な医師、というイメージがあることは誰にも否定できないでしょう。
しかし、レベルを保つための投資や費用を考えるとそうと、それが果たしてよいのかどうかとも言い切れないことを理解しないと、医師も患者さんも結局不幸になるだけだと思うのです。
いくら安くてもキチンと治らなければ意味がないからです。

私の場合、適切な感染予防の意識と、歯の治療にはある程度お金がかかってしまうという感覚を患者さんに理解していただくまでに10年以上の歳月がかかりました。
そして一番難しかったのが、治ったと分かっていただける感覚が分かる患者さんと出会うことでした。患者さんとの出会いはとても大切です。医院の性格上敏感な患者さんが多いのですが、多少治療が難しくても、自分が治療して状態を良くなったことが実感できる患者さんと出会えることが、歯科医としての自分の存在意味を感じることが出来るのだと思います。

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