歯の治療で顎を動かす

  歯の治療で顎を動かす

お役立ちコラムCOLUMN

2014.05.08

歯の治療で顎を動かす

顎関節症の治療で、歯の治療で最も効果があるのは、下顎の3次元的な位置を矯正治療を使って移動させる方法です。
しかし、今までも、矯正治療に限らず3次元的な顎の移動をすることで、様々な方法で顎関節症の治療が行われてきました。
しかし、なかなか確実に効果の出せる、これぞと言う方法がなかったのです。「それはなぜでしょうか?」
まず矯正治療では、ブラケットを上下の歯すべてに着け、全ての歯はワイヤーの力でどんどん移動してゆくため、噛む位置は常に変化してしまいます。
これでは矯正治療中に「顎の位置をコントロールしている」とはいえません。本当にきちんと矯正を行うのであれば、「顎の位置をコントロールした矯正治療」がぜひ必要なのです。
しかし、顎の位置をコントロールする矯正治療を考えた矯正医は今までほとんどいなかったわけです。顎の位置を移動する矯正治療としてはKim先生の開発したMEAW(multiloop edgewise archwire)という方法がありますが、これは歯をワイヤーを屈曲することで、1本1本の高さや傾斜をコントロールし、歯の高さ、位置を変えることで顎が移動させてゆきますが、奥歯を上げたり、顎の位置を正確にコントロールすることはできません。
またシークエンシャル咬合ではオーバーレーと言う方法で天然の歯に先に金属のかぶせ物をして顎の位置を決めて矯正治療を行いますが、矯正治療中に歯が移動して、噛みあわせを決めている歯が移動してしまい、顎の位置を十分にコントロールできているとは言いがたいといえます。
一方、補綴治療で仮に顎の位置をコントロールして顎関節症を治す方法もあるのですが、そもそも顎をどのような位置に持ってゆくべきかという議論に関して、いまでもまだはっきりこれだという結論がでていないのです。
かみ合わせや顎の位置に関しては、補綴学や咬合理論の分野であり、アメリカではナソロジー、ヨーロッパではシークエンシャル咬合論が、正しい噛み合わせの位置について長年議論してきたのですが、顎関節症を起こさないためや、顎関節症の治療に必ず効果のある噛み合わせの位置を採得する方法がわかっていないと私は考えています。
顎の位置を3次元的に生理学的な位置にすべき矯正治療学に必要な正しい噛み合わせの位置を採得する理論がはっきり決まっていないことと、矯正治療中に下顎の位置を確実にコントロールする方法がなかったことで、矯正治療自体が、「術後に顎関節症などの顎のトラブルが起こるかもしれない?」といった、ある種のリスクを抱えた治療法となっているわけです。
私は下顎の正しい位置は「上顎と下顎の顎関節の位置関係だけでなく、顎の周りの筋肉、頚椎周りの筋肉、後頭部の筋肉、頚部の筋肉が最も緊張が緩むバランスの取れた位置」が生理的に正しい位置に近いと考えます。私の場合、噛みあわせを決定する際はそこを一番に配慮して行います。そこがシークエンシャル咬合の咬合採得ともナソロジーの咬合採得とも異なると考えます。
このようにして顎の位置を誘導してゆくと、頭頚部の筋肉が徐々に緩んできます。そして本来のねじれや歪みのない頭頚部の骨格へと変化し、それと共に「頭頚部の筋肉の最も緊張が緩む下顎の位置が徐々に変化して来ます」。それに合わせて与える噛み合わせの位置をコントロールしてゆきます。
下顎は大変自由度の高い2つの関節で上顎とゆるく結びついており、それはちょうど海に浮かんだ小船のようです。船は「左右」、「前後」、「上下」と3次元的にどんな動きでもします。これとまったく同じことが下顎に起こっているのです。
「右の高さに比べ左が低ければ下顎は左斜め上に上がり」(実際は顎関節の構造からもっと非常に複雑な動きをします)、「奥歯が低ければ後ろ上がりの顎の位置になり」(このときは顎全体が後ろに下がりながら奥側が上に跳ね上がります)「前歯が内側に倒れていると顎は自然に後ろに下がります」
実際には左右の高さは上が低いのか高いのか右が高いのか低いのかで4種類のバリエーションがあり、奥歯が低いのも上が低いのか、下の歯が低いのかで2つのバリエーションがあります。そして、それらすべてが組み合わせれるので、かみ合わせのずれの原因は、大変多くのバリエーションがあり、それを診断で読み解いてゆく必要があります。その診断を完全に理解するのに15年以上の歳月がかかったわけです。
当医院で行う矯正治療はこの診断から始まり、これらを解決する方法論を盛り込んています。
以前は「咬合平面を変える」ということは矯正治療ではあまり積極的でなく、むしろ問題を引き起こすことを考えられてきましたが、最近では矯正治療でも積極的に「咬合平面を変える」という方法論が注目されてきました。
実際この方法論と使って治療を行ってみると、確かに噛み合せの位置が3次元的に変化し、「一見手術以外では治す方法がないと思われるような患者さん」でも、治ってしまうことがあることが分かってきました。
3次元的に顎の位置移動を行いながら、上下左右の歯の高さを調整しながら、変化してゆく下顎の生理的位置に確認しながら噛み合わせを導く方法がこれからの矯正治療にはぜひ必要なのです。
このような考え方で「どの歯の高さに不具合があるかを診断して、それが治るように矯正治療を行うことで狂っている噛み合せの面を正しくする」ことが出来たのです。
この治療法によって「顎が後ろに下がる」「顎が左右にずれる」といった事がなくなり、睡眠時無呼吸の症状が改善し、呼吸の質までがよくなります。また首周りの筋肉が弛緩し、中枢神経系にも良い効果が現れることが観察され、矯正治療のレベルを上げる方法であると考えています。

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